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海・里・山の自然に彩られた「ジオパーク」のまち西予市で、森のようちえんなどの事業を展開する加藤雄也さん。埼玉県での環境保護団体職員を経て、妻の千晴さんと移住を決めた。
現在は3人の子どもたちと笑顔あふれる5人家族。加藤さんの西予での暮らしから、本当の豊かさとは何かが見えてくる。
知らないまちのほうが活動の余白がある。
どのような経緯で移住を決めましたか。
(雄也さん)もともと自然が好きなのですが、自然を求めて出かけるには、都会からだと時間もお金もかかります。35歳までにはもう少し自然に近いところ、実家に近いところに住みたいねという話を妻としていました。私は今治市出身で、妻は大学が愛媛県だったことから、愛媛への移住を決めました。
愛媛の中でも西予を選んだ理由は。
(雄也さん)首都圏で開かれたイベントで西予のことを知り、ジオパーク活動に興味を持ちました。正直それまで西予のことは知らなかったんです。でも観光地としてすでに有名なまちよりも、自分が住んで何か始めるにはこれぐらいのまちのほうが活動の余白があると思いました。
西予に足を運び、ゲストハウスに泊まったときに同世代の方たちを紹介してもらったことも決め手の一つになりました。フィーリングが合うなということをすごく感じて、ここなら楽しく暮らせそうだなと思ったんです。
これまでの経験も生かせそうだと感じましたか。
(雄也さん)はい。埼玉ではエコツーリズムに取り組む事業の支援などもしていたため、そのノウハウがジオパーク活動でも生かせそうだと思いました。2015年春に地域おこし協力隊に着任し、ジオパーク推進担当のメンバーとして活動しました。いずれは独立して行政と連携しながらやっていくというイメージを持っていたので、2016年には協力隊活動の一環として森のようちえん活動をスタートさせてもらいました。
森のようちえん活動とはどのようなものですか。
(雄也さん)小学校に上がる前の未就学児と保護者を対象とした野外活動です。全国にさまざまなスタイルがありますが、うちでは親子で参加してもらう自主保育型にしています。自然の中には花、虫、川、石などいろんなものがありますが、その中から子どもたち一人ひとりの興味・関心に合わせて遊びを展開していくというやり方です。地域の自然を丸ごと子どもたちの教育に役立てようというコンセプトです。
ここで、子どもたちを保育園に迎えに行った妻の千晴さんが、長女の悠風(ゆうか)ちゃん、次女の万宙(まひろ)ちゃん、三女の翠(すい)ちゃんと登場。自然と話題は子育てのことへ―
子どもたちを見守る周りの人々の目が優しい。
子育てをするうえで西予の魅力は何だと思いますか。
(雄也さん)地域の方の子どもを見る目が、とにかく優しいんですよ。あるとき子どもが庭で遊んでいたら、裏の家から煙が上がっていたんです。子どもが行って「なんしよるん? バーベキューかと思った」と言ったら、普通に何かを燃やしていただけで、「ごめんな、今度バーベキュー招待するわ」と言ってくださり、後日本当にごちそうになりました。そういう温かい方が多いということはいつも思います。それから小学校も少人数なので、先生が一人ひとりをよく見てくれていると感じます。
(千晴さん)都市部でよく見られる「保活」もゼロですよ。都市部だと一時保育もかなり早くから予約しないといけないと思いますが、私の経験だとこちらでは急なお願いにもスムーズに対応していただけました。それから、やむを得ない状況だけでなく、親がリフレッシュするために使ってもいいという雰囲気もありました。これは預ける側の心理的なハードルが下がると思います。
もちろん習い事が少ないとか、確かに都会に比べるとないものはたくさんあります。でも最近はオンラインでできる習い事も増えていますし、特に不自由は感じてないですね。
あり過ぎると本当に大切なものが見えない。
首都圏に住んでいたからこそ見える部分もあるのでしょうか。
(千晴さん)逆に今の時代、たくさんあるほうが本当に必要なものにたどり着くのに時間がかかるんじゃないかという気がします。ない中で工夫するほうが生きる力も育つのではないかと思うんです。選択肢もあればあるほどいいというわけではなく、どんな選択肢があるかが大事です。たくさんあり過ぎると逆に選ぶのにすごく時間がかかってしまいますから。
(雄也さん)それで言えば、ここ(森のようちえんの山の基地)にもあまり遊具は増やし過ぎたくないと思っています。ブランコが人気で取り合いになるぐらいですが、安易に増やせばいいということじゃなくて、一つのものをみんなでうまくシェアするのが学びの機会にもなります。できるだけ少ないもので工夫して遊ぶということを大切にしたいと思います。
ないからこそ豊かだということが言えるのでしょうか。
(雄也さん)そうですね。自然って何にもないようで、実はその中にいろんなものがあるんですよ。
(千晴さん)森のようちえんでも、多くのお母さんが、今あるものの見方が変わったり視点が増えたりしたときに喜んでくださっているような気がします。例えば地元に住んでいるけど知らないこととか、この草食べられるんですね! とか。SNS映えするスポットが増えるというようなことではなく、日々過ごす中でものの見方が変わることで子育ても生活も楽しくなっていくというような。「うちはこういう子育てをやっているよ」という参加者同士の視点のシェアが、新たな気づきをもたらしてくれることもあります。地方ですからハード面は限られていますが、今あるものを生かす。そうすることで選択肢が増える。それが私たちのやっていきたいことです。