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宇和島市中心部から4キロほど離れた九島(くしま)で、飲食店を経営する水野裕之さんと千尋さん。息子の瑶(よう)くんは小学校に上がり、島の外へバス通学を始めた。そんな水野さん家族を、島の自然と人々は優しく包んでくれる。この島で3人が出会った幸せのカタチとは。
魚がおいしくて、人が温かいところでお店を。
転勤で日本各地に住んだ経験があるのですね。
(千尋さん) そうなんです。夫とはホテル業の同僚として沖縄で知り合いました。その後、夫は福島、京都、山梨と転勤しました。私はすでに退職していて京都で入籍し、山梨にいるときに子どもが生まれたのですが、夫は仕事で家にいなくて、私がワンオペで育児をする状況が続いていました。家族の時間もないし、いつか独立したいねという話はしていたので、そろそろ本気で移住を考えようかと。
それで奥さんの地元の宇和島へ?
(千尋さん)まさか戻ってくるとは思ってなかったのですが、将来お店をするなら魚のおいしいところでやりたいというのがあって。夫が私の実家に遊びに来たとき魚のおいしさに感動したんです。
九島には祖母の家があり、結婚したときそこを訪ねたことも印象的だったようです。海があって魚がおいしくて人が温かい、そういうところで人が交わるようなお店ができたらいいなと。
地域おこし協力隊を九島で募集しているのをテレビで見て、九島でも募集してるのを知り、縁を感じて募集しました。
そして、2018年2月に協力隊として移住し、開店準備を進めて、2020年1月にお店をオープンしました。
食材やお店のことについて教えてください。
(千尋さん)魚、ジビエ、それから野菜も季節のものを使っています。島で唯一の飲食店なので、「お酒が飲めて歩いて帰れる」と地元の方にもよく使っていただいています。また市内のホテルと提携して夕食をうちで食べる宿泊プランもあるため、遠方の方も来られます。
店名は、「みんながニッコニッコになるように」の思いをこめてnicco(ニッコ)にしました。ロゴには、九島大橋の向こうから見た島の曲線の下に店名を書いています。下から九島を支えられるような存在になれたらいいなというのと、九島は夕日がとてもきれいなのでその太陽(日光)と、魚の絵も入れました。
子どものコミュニケーション力が伸びた。
子育ても二人でできるようになりましたか。
(千尋さん)はい。二人だけでなく、地域の方たちが見守ってくれる、みんなで育ててくれるという感じです。お店が忙しいときは宇和島市内にいる実家の母にも子育てを手伝ってもらっています。
お子さんにとって島の環境はどうでしょう。
(千尋さん)人との距離が近いことは、子どもにとってとてもいいことだと思います。いろんな方が声をかけてくださる中で育っていくので、コミュニケーションをとるのがすごく上手になりました。引っ越してきたときはそこまでオープンな性格ではなかったのですが、だんだん何でもやってみるようになって。石や流木、シーグラスを持って帰ったり。怖がりながらもちょっと触ってみるというような経験を積むことで、変わっていったのかなと思います。
忘れられない出来事はありますか。
(千尋さん)九島には多くのお年寄りが暮らしていて、みなさんには移住当初からとてもよくしていただきました。知っている方が亡くなったときは寂しいですが、でもいなくなって寂しいなと思う人が周りにたくさんいることは幸せなことです。息子にもそういうことを感じる人間に育ってほしいと思います。
ライフスタイルに変化はありましたか。
(千尋さん)テレビを見る時間が激減して、外で過ごしたいと思うことが増えました。散歩もよくしていて、いろんな景色をスマホで撮影しています。お店のSNSにはメニューより景色の写真が多いくらいです。
これからやってみたいことは。
(千尋さん)最近、リュックの中にごはんもレジャーシートも入れてピクニックセットにして販売するというのを始めました。うちで食事をしておしまいではなく、ここを拠点に島へ繰り出して自然を満喫したり人とお話をしたり、散策を楽しんでほしいと思います。
それから、できれば誰かにゲストハウスをやってほしいです! 「あの人たち楽しそうだから自分たちもやってみようかな」という人が出てきて、それがどんどんつながっていって、結果そういうピースフルな島になったらいいですね。
地方になくて、都会にあるものは何だろう。
−ここで、仕込みを終えた夫の裕之さんが登場。千葉県出身の裕之さんに、都会と地方の暮らしについても聞いてみた。
地方(田舎)に不便を感じることはありませんか。
(裕之さん)逆に、都会に住みたいという人に聞いてみたいのは、「地方になくて、都会にあるものは何だろう」ということです。インターネットがこれだけ普及している現代では、手に入る「もの」という意味ではどこに住んでもあまり変わらないと思います。
反対にこれが「体験」という話になると、都会の人は大型連休にお金を使ってわざわざ地方に行くわけですね。そうやって考えると、都会を「体験」したいならそれこそ旅行でいいんじゃないかなという気もします。
全国に転勤することで気づいた部分もありますか。
(裕之さん)そうですね。大学を卒業してホテル業界に入り、最初に赴任したのが沖縄の小浜島でした。旅行ではなく実際そこに住んで地元の人たちと交わることで、実家以外にまた帰ってきたくなる場所ができるという経験を初めてしました。そういう経験は人生を豊かにしてくれます。だから九島のお店も個室ではなく、空間を大きく使って人と人の交流が生まれるような造りにしました。お客さんがまたここに帰ってきたくなるような場所になれば、うれしく思います。