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高知市に生まれ育ち、結婚して夫の故郷・愛媛県伊予市に移住してきた山内ひろみさん。高知市で20年間、理容師を続けてきた山内さんは今、子育てをしながらイラストレーターとして過ごす。移住のリアルを表現する漫画も連載するなど、伊予市で新しい仕事と人脈を築く山内さんの、移住のことやいまの暮らしについて訊いた。
新天地で、イラストレーターデビュー。
山内さんの移住漫画、日常の風景や感情のリアルがおもしろいですね。
瀬戸内海の美しさや風景を彩る季節の花々といった風景の豊かさから、新鮮な食材がそろう産直市のこと、ゴミ出しルールまで、日常の気づきや伝えたいことなどを月2回、伊予市移住サポートセンター「いよりん」のウェブサイト上で連載しています。
なぜ連載するように?
「いよりん」の拠点にもなっている文化発信の施設「ミュゼ灘屋」で、イラストの個展をしたとき、代表の冨田さんが個展を見に来てくれて、「漫画も描ける?」って声をかけてくれたのがはじまりです。
イラストの仕事は以前からしているのですか。
高知市にいた頃から趣味で描いていたのですが、仕事になったのは愛媛に来てからです。夫が「絵がうまいんやから人に見てもらったら」って背中を押してくれて、個展を開いたら、チラシの挿絵などのイラストの仕事を少しずつもらえるようになりました。
県庁所在地・松山市と隣接する、人口3万8千人ほどの伊予市。山、川、海と自然に恵まれた風土や、民間主導による活発な移住施策などで知られるこのまちに、山内さんは2015年、高知市から移住してきた。
移住という、人生の扉のひらき方を選ぶ。
高知市ではどんな仕事をしていたのですか?
母が開いた理容室に勤め、母と私と叔母の3人でお店を切り盛りしていました。高校生の頃からデザインの仕事に携わりたくて、考えたら、理容師も髪型を“デザイン”する仕事です。何より母の働く姿が楽しそうで、母の店を手伝いながら、通信制で理容師の免許をとりました。自分で手がけた髪型をいろんな人に見てもらえる仕事を気に入っていました。いつかは店を継ぐつもりでしたが、こっちに来てしまいました(笑)。
なぜでしょう?
愛媛に暮らす夫が、高知に引っ越すという選択もありました。わたし自身も、高知に住み続けたい気持ちもあったのですが、それよりも、違う土地に行って、「いろんな人に会ってみたい」「おもしろいことができるのでは」という好奇心が勝ちましたね。
何より、移住前に伊予市へ遊びに来たとき、海岸線の夕陽に一目惚れしたんです。海に沈む夕景の大パノラマを見たとき、拝みたくなるほど美しくて。めちゃくちゃ感動してしばらく立ち尽くしました。この風景があるまちに住みたい、とほぼほぼ夕陽で伊予市を選んだようなものです。
実際に伊予市の暮らしはいかがでしょう。
自転車でどこまでも行くのですが、すぐに山にも行ける、海にも行ける。本当に自然が身近です。田畑も広がっていて、静か。かといって、公共交通機関で松山にも気軽に行けますし、近くに大型ショッピングモールもあるので欲しいものは大体そろう。不便さは感じないです。
里帰り出産をせず、こっちで妊娠、出産したのですが、地域の人たちがめちゃくちゃ世話をしてくれました。人が本当にやさしいんですよ。
子育て環境はどうでしょう。
子育て支援が充実しているので、とても育てやすいですね。大きな保健センターがあって、相談に通いました。建物内には、子どもが遊ぶ場所もあって、子育て中の友人もできました。街中には、絵本が充実した新しい図書館もあって、親子のお気に入り。唯一のネックは、小児科専門の病院がないことですね。
ほかに、伊予市の暮らしやすさはどんな点がありますか?
物価が安いですね。食べ物をはじめ、なんでも価格が安いです。産直が充実していて、新鮮で安くいろんな種類の食材を手に入れることができます。
こっちに移住して5、6年が経った今では、高知に帰ると車が多すぎて落ちつかないですね。逆に、伊予市に帰ったら「やっと帰ってきたわ〜」と落ち着きます。わたしにはこっちの暮らしが合っているなと感じています。
とはいえ、習慣や文化の違いに戸惑うこともあるのでは?
「郷に入れば郷に従え」で、ずっとその土地で暮らしてきた人たちがつくってきた文化に、移住してきたこちらが合わせるのが当たり前だと思っています。
どの土地でも同じで、“田舎”に行けば行くほど、暮らしの決まりとか文化、つながりが濃くなっていきます。田舎暮らしが合う・合わないはあると思います。わたしは「ここで絶対に住みたい」という気持ちがあったから、いろんなことを前向きに捉えることができました。もし、それでも「まちのここを変えたい」と思うようなことがあれば、意見を出してみんなで変えていけばいい、と思っています。
自転車でどこまでも出かけたり、個展を開いたりと、暮らす場所と自分の生き方をアクティブに“開拓”してきた山内さん。その行動力や好奇心で、地域や人と深くつながっていくことで新しい仕事をつかんできた。山内さんは、「伊予市だからできたこと」と語る。
ここだからこそ、広がる可能性がある。
山内さんの連載は、冊子になりましたね。
いよりんの冨田さんから「本にするけん」って言われたときは、本当にうれしかったです。移住を希望する人を中心に渡しているそうです。「2冊目も出せるように頑張って」と言われていて、制作の励みになっています。
イラストレーターとして活躍する山内さん。理容師に未練はないですか。
愛媛に移住することが決まったとき、母が「理容師は何歳になってもできるよ」と言ってくれたんです。実際、愛媛県は出張散髪の仕組みがあるので、登録したら理容師にもなれます。
今は、子育てをしながら、イラストを描く日々が充実しています。
実は、イラストレーターとは別に、学童保育の補助スタッフもしています。娘が通っている保育園の先生から、「学童保育のパートさんを探しているのだけど、向いていると思うからやってみない?」って声をかけられて。ちょうど、仕事を探していたタイミングだったので願ったり叶ったりで。二つ返事で引き受けました。今は、午前中に絵を描いて、昼から夕方は学童で働いて、1日のサイクルがうまくできています。
移住してよかったですか?
もちろんです。まさか、趣味の絵を仕事にできるなんて思っていませんでしたから。このまちだったから、できたのかもと感じています。人と人とのつながりがある伊予市だから、移住の連載といった仕事をもらえました。その連載を通して、新しい仕事の依頼も来ますし、人と人とのつながりの中で仕事が生まれています。自分一人の力だったら、できてなかったこと。地域の人たちに助けられて、今の自分の仕事があると実感しています。このまちの魅力をこれからも、伝えていきたいですね。