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コロナ禍の影響で働き方が変化した結果、移住を決断した方がいます。今回ご紹介する宮地浩之さん、TACOさん夫妻もそのひと組。今回は、移住して“日常”と“非日常”が逆転したビフォーアフターのものがたりを、お届けします。
田舎暮らしの憧れをリモート化が後押しする
こんこんと湧く名水をはじめ、肥沃な土地にめぐまれる愛媛県西条市。全国的にも注目が集まる人気の移住先に2022年、クリエイティブディレクターの宮地浩之さんと、ジュエリークラフトマンのTACOさんは東京都から引っ越してきました。
山形県出身の宮地さんと東京都出身のTACOさん。2人は都内の同じデザイン専門学校を卒業後、それぞれデザイナーとして会社勤めをしながら、交際を続けてきました。10年以上が経ち、ともに独立、結婚。そんな2人の共通の趣味はアウトドア。休みの日、長時間かけて郊外へと出かけていました。
“田舎暮らし”へのつよい憧れを持っていたのは、TACOさんの方。自然が大好きで、「いつの日か、子どもの頃から見続けていたアニメの世界のような田舎の一軒家で暮らしたい」と思い描いていたそうです。一方の宮地さんも、TACOさんとの時間を重ねるうちに、「人とのつながりがあり、自然あふれる環境で過ごす“よさ”みたいなものを感じ始めました」。
中学、高校と、東京発信のカルチャー全般に対する憧れを深め、高校卒業と同時に東京へ飛び出した宮地さん。「僕が住んでいたのは“田舎”とは呼べないまちでした。あの頃は、地元を出たくてしょうがなかったのですが、都心での暮らしが長くなるにつれて自然あふれる場所で住むのもいいなあと思い始めたんです」
それぞれに“田舎暮らし”への思いを募らせていた2人を後押ししたのが、コロナ禍による仕事のリモートワーク化。「結局、移住に踏み切れなかったのは仕事のことです。コロナ禍で打ち合わせが一気にオンラインになって、どこにいても仕事ができるようになり、移住後の生活が現実的になりましたね」と宮地さんは振り返ります。
クリエイターならではの発想で、都心から遠くへお引っ越し
“ギア”が入ってからの2人の決断は早く、理想の移住先を見極めようと、東京近郊、長野や福岡など各地に足を運びます。その中で心に留まったのが、西条市。「人の印象がよくって、移住担当者のウェルカム感も安心材料になりました。現地で地域の人たちに会わせてくれたのも、暮らしのイメージができてよかったです」と宮地さん。
たくさんの情報が集まったのに加え、西条市は西日本最高峰の「石鎚山(いしづちさん)」にいだかれるなど、アウトドアがさかんだったことも決め手に。野菜や果物といった食材のゆたかさ、水のおいしさ、中国・四国地方へのアクセスのよさを知ったのは、移住を決めてから後のことでした。
都心から、東京近郊へと移住する人が相次ぐ中、2人にとって未踏の四国を選んだ宮地さんとTACOさん夫妻。「東京近郊だと、人や文化など東京から逃れられない。どうせ引っ越すのだったら、全然違うところへ行ったほうがおもしろいと思って。同じ日本なのだから移住といっても特別なことではありません。飛行機を使えばアクセスにも困らず、大変なことはないです。僕たちは移住ではなく“遠い引っ越し”と言っています」
クリエイターならではの、ユニークで軽やかな発想は“西条”という位置のメリットにもおよびます。「西条は僕らにとってあくまで“拠点”です。瀬戸内エリアを面で捉えたとき、ここをベースに、仕事でも遊びでもいろいろ展開できたらおもしろいですよね。日本各地を見てもそういう捉え方ができる場所はほかに思いつかず、地理的にとても可能性を感じます」
自然の変化を感じる日々は、とてもゆたか
2人は今、一軒家で暮らしています。ジュエリーを制作するTACOさんにとって田園風景に囲まれた場所は、気にせず制作に没頭できる最高の環境。一方の宮地さんは、東京都内のウェブや商品の案件を遠隔でディレクション。撮影の立ち会いなどで時々、上京しています。
「この前は東京にどうしても行きたいカプセルホテルのサウナがあって、弾丸で行きました。都会と田舎のバランスが逆転した今、都会が非日常、田舎が日常になった今が、私たちにはとても合っていました」とTACOさん。
さらに、田舎の時間が日常になったことで、日々の小さな周りの変化に目が行くようになった、と2人は口をそろえます。「東京に住んでいた頃は、季節の変わり目を教えてくれるのは気温や街路樹の様子ぐらい。ここでは日々、風や風景の変化から季節の移り変わりを感じます。そんな暮らしがゆたかと感じるし、自分の中でいい感性がめばえていて、とてもいい経験になっているなと感じています」と宮地さん。
ジュエリーを制作するTACOさんも一緒。「もともと東京が嫌で移住したわけではないのでマインドがそこまで変わったというのではありません。でも日々、のんびりした気持ちで過ごせるようになりました。作家活動をする上でも自然物からインスピレーションをもらうことも多いので、自然に囲まれたいま、いい場所に来たなと改めて感じます」
クリエイティブに生きる2人が、自然あふれる日々に身を置くことで、内外と変化していくこの先にはきっと、2人の想像もおよばない“景色”が待っているはずです。