以前は、東京でIT系の会社を経営していた成田晶彦さん。仕事もバリバリ充実した40代であったが――、2012年、あることをきっかけに瀬戸内海に浮かぶ岡村島へ「地域おこし協力隊」として移住した。協力隊任期中にめでたく結婚した妻・紫乃さんとタッグを組み、今や島の代名詞ともなった「まるせきカフェ」をオープン。その後も新たなご当地スイーツ「ひめっこプリン」の開発や農業生産法人の運営など、精力的に活動の幅を広げている。
Q 40代で移住を決行! その原動力となったものは?
【晶彦さん】:東京で仕事をしていたとき、日々の生活の中で「問屋さんの存在というのは、いつかはなくなるんじゃないか」という予感のようなものがありました。中間マージンで成り立つ商売が減っていくということです。そんな折に東日本大震災があり、都市生活の脆弱さを肌で感じました。これからは自らでモノを生み出し、できるだけ第一次産業に近い分野で生業を持たなければ、と思うようになったんです。
また、「やりたいことは元気なうちにやっておこう」と奮い立つ転機にもなりましたね。そのうちの一つが島暮らしであり、その土地での起業でした。
Qたくさんある島の中から、なぜ岡村島に?
【紫乃さん】:岡村島は自分が夢に見ていた「理想の島」のイメージにぴったりだったんです。一周するのに車で10分足らずという小さな島だから、どこにいても海が臨めるし、港の一カ所に人が集まって暮らしているからこそ家族のように親密な関係を築いている。ここに永住したい!と直感しました。
【晶彦さん】:昔から島暮らしに憧れていたので、沖縄や小笠原諸島など日本中の島を見て回っていました。完全なる離島も魅力的ですが、起業を視野に入れた場合、交通面でも人がちゃんと流れてくる島がいいと思うようになったんです。
その点この島は、本州である広島県呉市と「安芸灘とびしま海道」で繋がっています。暖かいという点も気に行って、移住前に8回も通いました。
▲ナガタニ展望台からは、島の中心街が一望できる
Q「まるせきカフェ」誕生までの経緯を教えてください
【晶彦さん】:僕たちは最初「地域おこし協力隊」の制度(詳しくはこちら)を利用して移住しました。島の人とも交流しながら1年間かけて見えてきたのは、この島には農業漁業以外の地域産業がほとんどないという現状。他にも、地域のおみやげがない、空き家や耕作放棄地の問題など、課題はたくさんありました。
それらを解決するための糸口になればと、地域の皆さんと「まるせきカフェの会」を結成。2014年に開催された「しまのわ2014」というイベントに合わせて、この「まるせきカフェ」を民間自主企画イベントの一環として期間中にオープンさせました。移住して3年目のことでした。
「まるせき」という愛称は、今治市との合併で途絶えてしまった地域ブランド「まるせきみかん」からもらっています。地域の人は「まるせき」というブランドに非常に愛着を持っていて、その名前が消えてしまったことがすごく寂しく思っていたようです。「まるせきカフェ」は空き家を自分たちでDIY改修しており、販売するスイーツなどの材料は、耕作放棄地を再生して栽培しています。
▲ふたりの朗らかさを体現したような、ポップカラーの出で立ち
Q 空き家をカフェとして改修する際に、工夫した点は?
【晶彦さん】:床の高さです。足の悪い方から「座敷に上がるのが辛い」という声を多数聞いたので、和室の一部を土間のテーブル席として改修しました。床をのこぎりで切って、高さを下げたんです。でもそれには「座りやすい」以外の副産物があって、そのテーブル席と元々のお座敷席で目線の高さが同じになったんです。視線の高さが同じになることで、お互い会話や交流をしやすいみたいなんですよ。
実は二人ともDIYはほぼ素人だったのですが、今はネット検索でだいたいのコツが分かるので大丈夫でした。「他の人にできることは自分たちでもできるはず」が僕たちのモットーなので(笑) テレビ番組でお城の土壁修復を観たときは、後日その技を真似してみたりして、新鮮で楽しかったですよ。
▲どの席に座っても不思議と寛げる
Q 卵の殻で包まれた「ひめっこプリン」、衝撃です!
【紫乃さん】:そうなんですよ。ご覧の通り、まったく割れていない卵の殻にプリンが入っているのは、全国でもおそらくウチだけだと思います。食べた人には、製法の特許取得も勧められたぐらいです。詳細は企業秘密ですが、卵の中身をいったん取り出して、さらに手作りのプリンの液体を注入し、オーブンで焼いています。殻の中で焼くことで卵本来の風味が加わるんですね。カラメルや洋酒でごまかさない、純粋な昔ながらの焼きプリンの味をお楽しみいただけます。手間がかかるので一日10個限定。この島に来ないと食べられない貴重なスイーツです。
▲ひめっこプリンに、岡村島産ヒジキ、フェイジョアなどのパウンドケーキ、アイスが加わった「しまのわスイーツプレート」500円
▲卵の風味を最大限に活かした、プリンの原点を教えてくれる味
Q 「ひめっこプリン」を開発したいきさつは?
【紫乃さん】:今まで私たちの住んでいる関前諸島エリアには「分かりやすい売り」がなかったので、外からでも注目してもらえる「客寄せパンダ」のようなものを作りたかったんです。移住してきたときに、地域のお土産品(子供も喜ぶようなスイーツ)開発をしてほしいとの要望があり開発。それが結果的にカフェの開業につながっていきます。おかげで発売早々テレビでも取り上げられて、関東や九州からも食べに来てくださる方もいらっしゃいます。
【晶彦さん】:自分は移住前から一日3食プリンでも過ごせるほどのプリンマニアだったのですが、こういう形状は見たことがなく、いつか食べてみたかったんです。「待っていても誰も作ってくれなかったから」という動機ですね(笑) 近いうちに養鶏も始めて、素材から自分たちで作った地産品として進めていく予定です。
▲入口では、紫乃さんが描く愛情たっぷりの看板が迎えてくれる
Q地元の人たちに受け入れてもらうには?
【紫乃さん】:誤解を恐れずに言えば、私たちは無理をしてまで「島の人になろう」と思っていないんです。「よそから来た人」のままでいい、中でも「『この島が一番好きな』よそから来た人」です。移住スタート時は悩むこともありましたが、夫が「みんなすぐに慣れてくれるから」と。習慣や考えが違っても、「あの人はそういう人だから」と分かってもらえた後は、意外と円滑な人間関係が築けました。この島にずっと住みたいという気持ちが伝われば、皆さん喜んで歓迎してくれます。
【晶彦さん】:田舎では古くからの人間関係やしがらみで気を遣うことがあるかもしれませんが、僕らが「よそから来た人」であることで、気兼ねなくお店に来ていただけるようです。皆さんが気軽にくつろげる場所であり続けたいです。
Q今後の目標はありますか?
【紫乃さん】:移住者を呼ぶために、まずは雇用を増やしたいです。そのために農業生産法人である「株式会社 みかんの島」も立ち上げました。今はカフェで島の高校生にアルバイトをしてもらっているのですが、若い子たちが外の世界と接する場や、移住希望者の働く場をつくっていきたいですね。
【晶彦さん】:僕は島の有志の方々とNPOを立ち上げる予定です。空き家バンクや移住支援など、関前諸島には実行役となるNPOがなかったので、これからは役場の手が回らないこともカバーしていくつもりです。あとは……、僕が好きな動物「カピバラ」と触れ合える農園もつくってみたいですね(笑)。きっと島に来るお客さんも増えると思うんですよ♪
PROFILE
移住先エリア
移住先周辺の地図であり、正確な場所ではありません。
成田晶彦さん(当時43歳)、紫乃さん(当時39歳)。2012年、東京から今治市の岡村島へ地域おこし協力隊として移住。協力隊任期中に結婚、2015年「まるせきカフェ」をオープン
まるせきカフェ
愛媛県今治市関前岡村甲728-6
TEL0897-88-2010(火・水曜定休)
農業生産法人「株式会社 みかんの島」
この記事の関連リンク
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