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青い海の見える畑で
南向きのその畑からは青く澄んだ海が見えました。原田さんはここで、野菜と果樹を露地栽培しています。「しましま農園」──それが原田さんの屋号です。京都出身の原田さんが岩城島に移住し農業を営むようになってから5年目の春がやってきます。原田さんは毎日畑にやってくると、必ずすべての野菜や果樹の様子をひとつずつ見て回ります。
園地の総面積は1町8反(約17,850平方メートル)。虫がついていないか、葉や実の色はどうか、水は足りているか。まるで一つひとつの作物とコミュニケーションするように、じっくり時間をかけて歩いて回るのです。
自分がしたい仕事をするために
原田さんは京都出身。お母さんが岩城島、お父さんが近隣の広島県尾道市生口島の出ということで、幼い頃から島には親しんできました。大学では農学部の環境化学研究室で学び、卒業後は交通系企業のサービス品質を管理する会社に就職、4年間勤務しました。「当時は会社を良くしようと考えて頑張っていたけれど、会社にはそうでない人もいましたから、周囲との温度差が気になって(笑)」そう気付いて、自分がしたい仕事をやろう、と決心。幼い頃から生口島のおばあさんのみかん畑で遊び、農業が身近で親しみがあった原田さんは会社勤めの合間に農業の本を読み、程なく小さな土地を借りて家庭菜園も始めました。
実際に農業を体験してみると面白くなり、平日は会社で勤務、土日に有機農法を学ぶ農業学校に通うようになります。1年そこで学んだあと務めていた会社を退職。将来の本格就農に向けて、有機野菜を扱う八百屋「坂ノ途中」の自社農園「やまのあいだファーム」や、イチゴ・九条ネギなどを慣行農法(化学肥料や農薬を使用する一般的な農法)で生産している「渋谷農園」で修行。「そのようにしていく中で、畑をすることが自分にとって人生で一番時間を使いたいものだと確信したんです。」と原田さんは微笑みます。
農業を生業にするなら、暮らす場所は生まれ故郷の京都、または、ルーツのある岩城島や生口島のどれかと考えていた原田さん。上島町に地域おこし協力隊(上島町では島おこし協力隊という名称)の制度があり隊員を募集していたことから原田さんは岩城島を選び、2015年11月に岩城島へ移住しました。協力隊員として町内の農家でのお手伝いを通して島の農業を学びつつ自らの生き方も考える1年間を過ごし、16年11月に協力隊を卒業。現在(21年3月)は農業次世代人材投資資金の給付を受けながら、農家として独り立ちしていくための大切な期間を過ごしています。
しましま農園
原田さんが運営する「しましま農園」は野菜と果樹を主体としています。「有機農法の農家さんたちはストイックに有機にこだわっていますし、慣行農法は野菜の見せ方はもちろん収益性を追求しています。僕は両方の経験をしてきたうえで、どちらも間違いではないなと思っています。いま目指しているのは、いいバランスでその両方がある形です。」
野菜は固定種を中心におよそ50品目を少量多品種で栽培、それに加えて愛媛果試第28号(商標登録名:紅マドンナ)やレモンなど数種類を育てています。
「基本的に、僕が好きな品種を有機農法でつくっています。これまで合わせて70品目くらい試しながら、最近になってその中から売れる、または売りやすいものを絞り込み、50品目ぐらいに落ち着いてきたところですね。」畑を歩いてみると、ひと畝ごとに野菜が違います。この畝は芽キャベツ、その隣はカブ、さらに向こうはスティックセニョールというように、実にさまざまな品種があってとても楽しい!
「僕が農業に取り組むことが社会の役に立つようになればいいなと思います。僕の野菜を食べていただいたり、岩城の畑を訪れていただくことで、野菜が好きになったり自然のことを学んで暮らし方が変わったりする人が増える──社会にそんないい影響を与えられたら幸せ。」原田さんはそんな未来を夢見ています。
アボカド栽培を目指して
野菜や柑橘の栽培のかたわら、いま原田さんが取り組んでいるのはアボカドの事業化です。国内に流通しているアボカドはほとんどが輸入品で、国内産はごくわずか。ですが、じつは岩城島には自然に成長しているアボカドの大木があり、毎年実をつけているのです。また愛媛県内でも先行的に栽培に成功した例もあります。
希少な国産アボカドは安全性や味が評価され輸入品の数倍の価格で取引されており、高収益が狙えるまさにこれからの作物。原田さんはそう考え、アボカドを農園の中心的存在に育て上げたいと、自らタネを発芽させ、苗を育てはじめました。
アボカドを植えているのは主に生口島の園地。しまなみ海道の高速道路に程近い、日当たりの良い斜面にいくつものアボカドの幼木が植わっています。背丈以上に大きくなっているものもあれば、小さいまま枯れてしまっているものも。素人目で見ても一筋縄ではいかない未知への挑戦。でもアボカドの葉を手に取りながらそれを見つめる原田さんの目には、力強い輝きがありました。
[移住メモ]
岩城島は農業と造船の島。瀬戸内海の温暖で穏やかな気候を利用して、古くから柑橘類の栽培が盛んです。昭和後期にレモン栽培が導入されて以降、国産レモンの有力な産地のひとつとして「青いレモンの島」というニックネームで知られています。
[参考リンク]
※この移住体験談は上島町企画情報課が取材を行い、提供を受けたものです。
https://kamijima-life.jp/interview/582/