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出汁と発酵調味料をベースに、身体にやさしい料理を提供する飲食店を、田園風景の中で営む櫻井啓太さんと明日香さん。東京で出会った2人が、愛媛で飲食店を立ち上げ、人気店になるまでのお話をききました。
名水と農のまちで、人気カフェを営む
西日本最高峰「石鎚山」の恩恵のひとつ、「うちぬき」と呼ばれる自噴水にめぐまれる水の都・西条市。たくさんの里の幸に恵まれる “農”のまちでもあります。このまちで茨城県出身の櫻井啓太さんと、愛媛県出身の明日香さんは「SOI LIKKLE(ソイ リクル)」を営んでいます。
「うちぬきの水でとった出汁と発酵調味料、大豆を使った食材、地元の食材などを活かしたごはんを作っています。西条市は、料理が必然的においしくなるまちです」と語る、啓太さんと明日香さん。西条市の“食の利”を活かし、化学調味料を使わず、食材のポテンシャルを引き出すことで、地元の生産者にとっても地域にとっても欠かせない、貴重なお店を築いてきました。
「東京で出会った頃は、いまのような形になるとはまったく想像できませんでした」と2人。暮らしの拠点を愛媛に移したことで、それぞれの“やりたかった”ことが形になり、膨らみ、加速していったのです。
共通の趣味で今につながる、東京時代の出会い
明日香さんは、西条市に隣接する新居浜市出身。地元の高校を卒業後、看護師をめざします。愛媛県内の看護学校を卒業し、正看護師の資格を手にした明日香さんは、ずっとあこがれていた東京都で、看護師として働きはじめました。
「中学、高校と、東京を中心にしたファッション雑誌の世界にあこがれていました。東京では、あちこち遊びに行ったり、好きなことをしたりして、これまで味わえなかった体験を満喫していましたね」と明日香さんは振り返ります。
茨城県ひたちなか市出身の啓太さんも、「いろんなカルチャーがある東京へ行ってみたい」と、大学の進学を機に東京都へ。卒業後、料理好きを活かして栄養士の資格を取得。東京・白金の保育園で働き始めました。
そんな2人が出会ったのは、ある音楽のイベント。啓太さんは当日のケータリング担当、明日香さんは参加者として知り合いました。
愛媛のよさを知った啓太さんが、明日香さんの元へ
そのうち、明日香さんは「興味のある“食”で、地元で何かしたい」と、看護師をやめて2014年、愛媛へ戻り、「しまなみ海道」を結ぶ島の一つ「大島」の人気カフェでアルバイトを始めます。
ちょうどその頃、2人は遠距離での交際をスタート。明日香さんに会いに、大島を訪ねます。そのとき、啓太さんは初めて、瀬戸内海がはぐくむ愛媛という土地の魅力に触れます。
カフェで働きながら、「いつか自分のお店を持ちたい」という夢を抱き、マルシェで手作りのおやつ販売もしていた明日香さん。マルシェで出会った西条市の建築事務所から、「自分の事務所が空くから、そこでお店をやってみない?」と声がかかります。明日香さんにとっては願ってもないチャンス。不安と期待が入り混じる中、開業に踏み切りました。
一方、啓太さんは東日本大震災をきっかけに、「田舎暮らしをしたい」「自分のお店をしたい」という思いを深めていました。ただ、夢を叶える場所として想定していたのは、東京近郊。
それが、明日香さんの元を訪れることで、愛媛移住へと思いが傾きます。
「西条市は料理のベースになる水をはじめ、食材も本当においしく、風景もすごくよくてストレスフリー。ここがいいなと思いましたし、彼女をサポートしたいというのもあって、愛媛へ引っ越すことを決めました」
化学調味料を使わず発酵調味料をうまく活かした2人の料理は、啓太さんが保育園で栄養士をしていた時代、「子どもに添加物のないものを」と独自に考えた調理法が基本。啓太さんが加わることで提供する食事の方向性が決まり、2015年、ソイ リクルの前身「くらしとごはんリクル」はオープンしました。
時代を先取りしたメニューに、世の中のニーズが追いつくのに少し時間はかかりましたが、時を経て、県外からもわざわざリクルを目指して訪れるほど、県内屈指の人気カフェへと育っていきました。
暮らしも仕事も地域に根づいて、生きていく。
そうして、お店を構えて7年。客席も加工・調理場も手狭になったため、2023年3月、自宅のある丹原地区に「ソイ リクル」として移転オープンしました。
2人はこれまで、ごはんものだけではなく、地元産のくだものをジャムやかき氷のシロップに加工し、まちの特産品に付加価値をつけてきました。移転した丹原地区は、西条市の中でもくだものの産地。さらに、産地に近づきました。
「旬のものが生まれる背景がここではダイレクトにわかります。生産者と直接つながることもできます。だからこそ、できることがあると思っています。私たちのお店はただ料理を作って提供するのではなく、循環とかフードロスとか、社会に対しての責任を果たせるようなお店にしていきたいんです」と、啓太さん、明日香さんはソイ リクルを営む思いを語ります。
「東京のころより圧倒的に忙しい」日々を送りながらも、祭りといった行事や消防団などの地域活動にどっぷり関わる2人。「ある日、地元の方に『もうずっとここにいるんだから“移住者”じゃないよ』と言ってもらえて嬉しかったのを今でも覚えています。どうやったらこのまちが元気になるか。一住民として暮らし、物事を考えています」と啓太さん。
「西条市は工業や農業がさかんな歴史のある地域です。さまざまな価値観を受け入れてきたまちだからこそ、ここまで地域に関われるし、お店も続けてこられたのだと思っています」。明日香さんは、地域への感謝をそう言葉にしました。
地域ごとを自分ごとに、自分ごとを地域ごとに。自分たちだからこそ、西条だからこそできることを2人はこれからも考え、極めていきます。