えひめに千年の森をつくる未来循環型の暮らし
2007-12-26

東温市井内に広がる棚田の一番上で、自給自足をめざした未来循環型の生活を営む鶴見武道さん(61歳)、恵子さん(56歳)夫妻。平成12年に愛媛に移り住んで以来、千年の森をつくる会の活動を通して、「この地域には、夢をかなえるパワーがある」と地域との繋がりを広げています。森に続く棚田のてっぺんから見下ろす絶景を、次の世代に原風景として引き継ぐための活動を続ける鶴見恵子さんに愛媛での暮らしについてお伺いしました。
●愛媛に来るきっかけは?
私の夫は、22年間千葉県で農林高校の教員をしていましたが、研究が好きでずっと続けており、出来れば林業を専門とする大学に移りたいと思っていました。その矢先、愛媛大学から声を掛けていただき、平成12年4月にこちらへ来ることになったんです。私も養護学校の教員をしていたのですが、愛媛に移り住むことをきっかけに退職しようと決めました。娘が小学4年になる平成13年に娘と私が来ることになりました。
夫が単身赴任で生活するようになって1ヶ月が過ぎた5月の連休に、住宅情報誌でこの物件を見つけました。千葉で「千年の森をつくる」活動をしていたので、せっかく移り住むなら、その千年の森の活動を日常的に行えるところの方がいいなと思いました。

▲田植え後に水をたたえた棚田
ここは、背後に森があり、棚田が広がり、水路も流れている。本当は川が流れていると良かったのですが・・・(笑)。自然の循環を体で感じることが出来ます。「あっ、ここだ」ってね、決めました!夫の同僚は「決めるのが早すぎるのではないか。もう少し慎重に決めたほうが良い」と心配してくれましたが。偶然でしたが、運命的というか、この地に引き合わせていただいたような気がしています。

▲母屋と集会所にしている納屋、薪風呂のある私たちの住まい
私は移住する先にイメージを持っているということがすごく大事だと思っています。移住先で自分は何をしたいのか、どういう所に住みたいのか、というイメージが具体的で明確であればあるほど、そういう地域にめぐり合うと思うんです。
●その物件には農地が付いていたんですか?
そうです。6反付いていました。ある本※に4反あったら家族で自給的な生活が出来ると書いてあったんです。1反の「田んぼ」と1反の「雑穀畑」と1反の「野菜畑」、そして200坪くらいの敷地に家と納屋、山の幸の応援があれば6人家族が悠々自給生活を楽しめるとね。それが「ここで実現できる」と思うと、うれしかったですね〜。
ちょうど移住した時に棚田整備事業があり、最初2反5畝から始めたんです。結果的にはそれが良かったですね。初めから6反あったらとんでもないことになっていたと思います。
この地区(井内地区)の皆さんは、燃えていますよ。農地をほとんど荒らしてませんからね。ちょっと荒れていると地域ぐるみで草を刈っています。近くの耕作放棄地にはコスモスを植えて、耕作地に戻す取り組みをしています。
※大谷ゆみ子著 「未来食」 (株)メタブレーン
●すぐに地域の方となじめましたか?
移住した当初から近くの"信にい"と"ミヲさん"に、家族のように面倒を見てもらっています。「街で暮らしてきた上品な奥さん(笑)が、お百姓なんかするわけがない」と思っていたそうですが、田んぼを始めたのでびっくり!私は農業の経験がないから、道具もなかったんですけど、自分の分と私の分、農具を2セットずつ持ってきてくれて手取り足取り教えてくれました。あぜ塗りをするのに「最初は四つ鍬であぜ端に土を寄せて、つぎにこの鍬で土を上げて、最後に、あぜ塗り用の鍬でぺたぺたと叩きつけてからすーっと均していく・・・」。これが、そう簡単にはいかない。私がもたもたしている間に、はるかかなたまであぜ塗りが仕上がっていきました。そういう応援がなかったらとても出来なかったですよね〜。

▲やっと収獲した不ぞろいな大根たち
田舎に行けば行くほど、よその人に来てもらいたいという心情もありながら、実は自分たちの私生活が崩されるんじゃないかという不安を持っているところもあるようですね。それで、移住したけれど、まわりとうまく順応できなくて離れてしまうケースもあるようです。私の場合は、本当に周りの方に恵まれたなと思っています。
●千年の森をつくる会はどうされたのですか?
夫が来た年に「えひめ千年の森をつくる会」を立ち上げて、次の年、家族が来てから愛大農学部の学生さんを中心に棚田の活動を始めたんです。その次の年から、賛同してくださる皆さんと千年の森をつくる「森の活動」と地元の西谷小学校のお子さんと先生と保護者とで「自然体験教室」を始めたんですよ。そしてそれを継続しています。

▲毎年3月に行っている千年の森をつくる植樹祭
●どのように学校にアプローチしたんですか?
たまたま移住した翌年に私が小学校のPTA役員に就いたことがきっかけです。「副会長はどうですか」って訪ねてこられたのです。その役を積極的に受けることで地域とのつながりが広がっていった感じがします。こちらに住むようになって感じたこと等を地域の「敬老会」でお話させていただいたり、千年の森の講演会にも皆さんに来ていただいたりしながら・・・。「松山の市街地まで45分、空港まで33kmの便利さ、それなのに豊かな自然に恵まれている。こんな素晴らしい立地条件はない」とみんなに言うと、不思議そうな顔をされますが、ここはへんぴな田舎だと思っていたけどそうでもないらしい・・・という意識が芽生えたようで。何か変わったことをやって面白そうだぞ、みたいに興味を持ってくれました。
▲一列に並んでさあ田植えだ!
私たちはここで自然体験教室をやりたいという願いを持っていました。子どもたちが育つのに、農林業の自然体験が欠かせない。自然の中で本物の体験をしてほしかったのです。
ちょうど学校も、総合的な学習の時間に自然を取り入れた環境教育に熱心に取り組んでいました。その活動を地域に広げたいと思っていた時で、私たちのニーズと学校のニーズが一致したんです。
PTAの副会長の役をやらせていただく年に、PTA主催で自然体験教室を始めることになり、多くのPTAの皆さんに協力していただきました。「鶴見さんが続けたいと思う間は、応援するよ」と。その言葉通りに、ずっと変わることなく、6年間支え続けてくださっています。(心より感謝!)
●こちらに来られた時の子どもさんの反応はどうでしたか?
息子は成人していましたので当初一人で千葉に残りました。娘が来た時は小学4年でしたから最初は街の生活とのギャップに戸惑っていましたよ。時々街の灯が恋しくなり、大型スーパーでアイスクリームを食べさせたり、本屋さんに連れて行ったり、レンタルビデオを借りてきて見せたりしていましたね。今は、ここの手作りの生活が気に入っているみたいです。息子は2年遅れてこちらで就職し、結婚して今では二児の父親です。農業手伝いもぼちぼちやってくれます。
●こちらに移住してきてのマイナス面は
えーっと、ここは寒いです。冬に、湧水を引いている水道管が凍った時は困りましたけど、そのことで水の大切さを再認識できました。マイナスの要素は創意工夫するチャンスでもあるのですね。だから、あまりマイナスの事はないかなぁ。寒いとガスや灯油をたくさん使いCO2もたくさん排出してしまうのですが、薪ストーブを入れたら暖かいし、炎を見ているといつまでも飽きなくて、ゆったりとした時間を楽しめる。その上CO2の削減につながったのですね。マイナスの要素をプラスに変える、逆転の発想がうまく行ったときは、本当にわくわくしますね〜。

▲薪風呂の炎を見ながらしばし静寂のひと時
●ここに永住されるのですか?
ここに永住するかどうかは自然に任せています。自分がやりたい活動があって、ここでその事が出来て、その間ここに居させていただいているという感じかな。ここの土地は一応私たちの持ち物ですけど、仮に使わせていただいている土地であり建物であるという感覚ですよね。自然は誰のものでもないですものね〜。ここで、自然に対して、人に対して私たちができることを楽しく行っていける間は居ることができるし、そうでなくなったらここには居られないかもしれない。そんなふうに思っています。楽しいときが最期までずっと続いたら、永住できたという事になるのかもしれませんね。
●移住する時の心構えは何かありますか?
イメージを明確に持つことは大事ですが、最初から肩肘張って、ここで骨をうずめるとか、絶対成功しなくてはとか、気負うことはないですよ。頭の中で描いていたものがすぐにそのとおりに実現するとは限らなくて、その土地に行って周りの状況にあわせて軌道修正するというか、変えていく必要がありますものね。自分の計画そのものもそうだし、その周りの人や地域の人との関係で変わっていくこともあるでしょう。でも、長い目で見ると、目標の実現に向かっている。そういう柔軟性が必要だと思います。もしかしたら自分の想像していたもの以上のことが出来るかもしれないし。
地域の人に教えていただき、地域に支えていただいた方が、自分で思っていた以上のことがどんどん出来ますよ。自分ひとりの考えなんてちっぽけなものですから。人が集まれば集まるほどどんどん構想は大きく膨らみます。
そういうことを受け入れていくというか、そういうことの中に学ばせていただくということがすごくいいかなと思います。今ここの千年の森をつくる会には、年間2000人くらいの人がさまざまな体験に来てくださいます。

▲自然体験教室の子どもたちと「きりたんぽ鍋」作り
●移住を考えるならまずは地域を知ることが大切だと思います。決めてしまう前に一ヶ月でも一週間でも地域の生活を体験することをお勧めしています。移住を考えている人や応援センターにアドバイスするとしたら?
それも、「想いの強さ」とつながると思います。何がしたいかっていうことを明確に持っていないと、おそらく体験しても、体験しなくても変わらないと思いますね。だから、移住した先で、自分が何をしたいかをはっきりさせていることが必要です。そのうえで体験されると良いですね。
サポートする側は、体験するときにその方が何を実現したいと思ってるか、明確になるようなアプローチをするとよいと思います。話し合いの機会を持って、その人の想いがより鮮明になるような働きかけをするとよいと思います。そしたら失敗が少ないのではないでしょうか。
やってみて考えるのもひとつの方法だとも思いますけど。
やってみて考える場合はかなり紆余曲折が予想されますね。途中で挫折する可能性が高くなってくるし。あと、周りの意見に翻弄されちゃう。地域の人は何か違うことをやろうと思ったら、賛同してくれる人もいるけども、そうでない人もいないとは言えない。そのときに自分がやりたいことが明確でないと気持ちがめげてしまいますから。
あるいは、やっぱり自分はダメなのかなって思ったりするんですよね。だからこそ、やりたいことや自分の想いをコツコツと、少しずつでよいから、とにかくやり続けていくことが大事だと思います。
-PROFILE-
鶴見武道さん(61歳)、恵子さん(56歳)
平成13年、千葉県より東温市に移住。
えひめ千年の森をつくる会
http://www.1000-mori.jp/